Key Audit Matterの開示例(その1)
あたりまえですが、日本の上場会社でKAMを記載した監査報告書を受領している企業は少数であると思われます(ロンドンなどで同時上場しているケースは別)。だから、監査報告書に記載されているKAMの事例などを知りたかったら、現段階では基本的に海外の事例にあたる必要があります。当然、監査報告書は英語で記載されているので、英語がわからない人は、何が書いてあるのかちょっとわからないでしょうね。ということで、いくつか日本語で情報開示を行っている企業や、海外の有名企業の監査報告書を見ながら、KAMの記載例について分析をしていきたいと思っています。
第1回は、エア・リキード・エス・エー(L’AIR LIQUIDE S.A.)。フランスの産業ガスメーカーです。東京ガスのような会社と思っていただければいいのでしょうか。なぜ、この企業の監査報告書をとりあげたのかというと、EDINETで日本語版の監査報告書を閲覧できるから。おそらく、こちらの会社は、日本でかなりの規模の資金調達を行ったことがあると思われるのですが、その関係で有価証券報告書を開示しています。ということで、具体的に見ていきたいと思います。なお、原文を当たりたい方はEDINETをご参照ください。
具体的に挙げられているKAMは下記のとおり
① ラージ・インダストリー事業における契約の適格性および関連する収益認識方法評価の正当性
ガス供給事業においては、限定された顧客との間で、長期契約を結ぶことが多く、多額の事業投資を必要とするようですが、これらの投資は、工業地域のパイプラインに接続する顧客へのサービスの提供を目的として行われるため、資産の帰属が問題になることも多いようです。長期供給契約に使用される資産が顧客専用であったとしても、当該資産の利用から生じるすべてのリスク及び収益が顧客に移転されないことになり、会社側で有形固定資産が計上され、契約により受領した全額は収益として認識されることになるようです。いずれにしても、契約が複雑であり、契約締結時に行われた評価が連結財務諸表に与える影響も大きいため、長期契約及び関連する収益認識基準の適格性を重要な監査事項として検討されているようです。
② ラージ・インダストリー事業:製造ユニットの耐用年数及びその回収可能価額の測定
2018年12月31日現在、有形固定資産の純簿価は2兆円を超える規模のようで、減価償却は見積耐用年数(通常15~20年)をもって行われているようです。これだけの金額的規模であれば、損益インパクトも相当大きなはずで、これがKAMとして挙げられています。また、 見積超過や建設遅延、立上げ条件、技術の変更、地理的立地、カウンターパーティ・リスクによって、投資の期待リターンやその回収可能価額が悪影響を受ける可能性があり、資産の減損にも影響を与えているようです。
③ のれんの減損
2018年12月31日現在、のれんの純簿価は133億4500万ユーロ(1兆円超)にもなるようで、減損インパクトも並大抵のものではないと思われます。資本コストのちょっとしたFluctuationで、減損金額もかなりブレることが予測されますので、当該事項がKAMに挙げられることは何ら不自然ではないでしょう。
正直な話、不動産会社や電力・ガス会社などの多額の資産を抱える企業は、だいたいどこの会社も同じようなKAMの記載になることが予想され、だいたい①収益認識、②固定資産評価、③のれんの減損に集約されると思われます。いずれしても、外資系企業が日本で資金調達をしている場合、このように有価証券報告書を開示していることが多いので、監査報告書の開示例などを確認したい場合にはチェックしていただければと思います。
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