政策保有株式の売却
近年、上場企業が保有していた投資有価証券の売却に関するニュースが目立つような気がします。ついこの間も、凸版印刷がリクルートホールディングスの株式を売却し、773億円の売却益を計上するニュースがありました。
凸版、リクルート株で773億円の売却益を計上 (日経新聞 9月10日)
タイミング的に、リクルートの内定辞退率に関するレポーティングが問題になっている時期なので紛らわしいですが、ひとえにこれは東証のコーポレート・ガバナンス・コードが求める政策保有株式の処分によるものでしょう。
政策保有株式とは、対象先との長期的・安定的な関係の維持・強化、事業戦略上のメリットの享受などがはかられ、対象先および当社グループの企業価値の向上に資すると判断される場合において、限定的に保有する株式のことをいいます。かつての日本企業においては、株式の相互持合により、安定株主を確保することを目的として、政策保有株式を持つということが積極的に行われてきました。しかし、コーポレート・ガバナンス・コードの制定以来、この流れが一気に変わってきたような気がします。
現在、コーポレート・ガバナンス・コードでは、以下のような規定が設けられています。
【コーポレート・ガバナンス・コード 原則1-4】
上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。
(補充原則)
① 上場会社は、自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)からその株式の売却等の意向が示された場合には、取引の縮減を示唆することなどにより、売却等を妨げるべきではない。
② 上場会社は、政策保有株主との間で、取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社や株主共同の利益を害するような取引を行うべきではない。
実は、下線部が2018年に新たに付け加えられた内容になります。上場企業は、近年、政策目的株式の保有の適否を検証するようになり、取引の経済的合理性が認められない場合には、積極的な売却を行う傾向があります。
印刷会社とリクルーティング会社は、必ずしも関係がない業界ではないとは言い切れませんが、印刷会社がリクルーティング会社の株式を保有することに経済的合理性がない場合には、コーポレート・ガバナンスの観点から望ましいとは言えないというスタンダードが醸成されています。持合いによって保有する割合というのは、決して少なくないので、売却のタイミングというのは非常に難しいと思われますが、こういった傾向は、今後も続くものと思われます。