IFRSにおける「のれん」の減損
よく、「のれんの減価償却をする必要がない」という単純な理由で、日本基準からIFRSへの変更をする企業の話を聞きますが、少なくとも、そういう動機で変更することは、あまり望ましくないと思っています。
なぜならば、のれんを減価償却する必要がないからこそ、IFRSにおけるのれんの減損の取り扱いはかなり厳しいものになっているからです。もちろん、他の有形固定資産の減損についても、厳しいことには変わりないのですが、ここでは、金額的にもインパクトの大きいのれんについてのみ言及することとします。
のれんは、毎期減損テストを実施しなければなりません(IAS36.10)。しかも、この減損テストは、減損の兆候があると判断された場合に、すぐに帳簿価額と回収可能価額を比較するプロセスに移ります。これが、日本基準の場合には、減損の兆候があると判定された資産について、まず割引前将来CFの総額と帳簿総額の比較を行い、CFの総額が下回った場合には、帳簿価額と回収可能価額を比較するプロセスに移ります(固定資産の減損にかかる会計基準)。
上記のアプローチの違いは、非常に大きなものです。なぜかと言えば、減損の兆候があった時点で、IFRSの場合には、即減損損失を計上しなければならない可能性が高いからです。しかも、減損の兆候の例としてあげられている事例が非常にアバウト。例えば、IFRSでは内部の兆候として、「営業CFが予算よりも著しく悪化していること」という例があげられているのですが、これって、アグレッシブな予算をたてて、それよりも実際の数字が悪かった場合、減損の兆候と捉えられてしまい、減損損失を計上しなければならなくなる可能性もあるということなのです。
日本基準は、なぜ緩やかなのか?それは、割引前将来CFの総額と帳簿総額を比較するプロセスがあるからです。実務に携わっていればわかるのですが、割引前CFの総額が帳簿総額(毎期、減価償却している金額です)を下回ることって、そうそうありません。だから、なかなか減損損失を計上するプロセスまで行かない。そして、減損損失を計上する機会は、IFRSよりも少なくなるのです。
結局、IFRSにおいて「のれんの減価償却をする必要がない」というメリットは、「のれんの減損損失のリスクが大きい」というデメリットと相殺される、場合によってはデメリットのほうが大きいケースもよくあります。M&Aを頻繁に行う会社では、上記のような理由でIFRSに変更するという事例を耳にしますが、こういった影響度についても専門家に意見を聞いた上で、適切な対応をとっていきたいものです。
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